What’s New

2025.12.22プレスリリース

「尾西食品×東京大学 防災探究アカデミア」研究発表会を開催 中高生が防災研究の成果を発表 大人の研究者も見落としてきた新たな視点も

災害への危機意識をもつ首都圏に住む中高生30名が4チームに分かれ、学術的レベルの防災提言を実施 (プレスリリース詳細版)


尾西食品株式会社(所在地:東京都港区、代表取締役社長:市川伸介)は、東京大学大学院情報学環 開沼研究室と共同で実施している防災教育プログラム「尾西食品×東京大学 防災探究アカデミア」の研究発表会を、12月14日(日)に東京大学福武ホールにて開催いたしました。



9月のキックオフから約3ヶ月にわたり、集まった中高生が防災をテーマに調査・研究を進め、その成果を学術的レベルでプレゼンテーションしました。
________________________________________
【開催概要】
日時: 2025年12月14日(日) 13:00~15:30
会場: 東京大学 福武ホール
参加者: 全国から集まった中高生26名(4チーム)
主催: 尾西食品株式会社
協力: 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター開沼博研究室
________________________________________
【発表会の様子】当日は13時からの発表会に向けて学生の皆さんは10時に集合し、最終調整をおこないました。


↑大学生のメンターと最終調整を行う様子


↑尾西食品提供の一汁ご膳(防災備蓄食)を各自で作る様子
4チームがそれぞれ8分間の発表と10分間の質疑応答を行い、約3ヶ月間の研究成果を披露しました。発表内容は、問いと答えの対応関係の明確さ、先行研究の整理、調査方法の新規性・独自性、プレゼンテーションの魅力、分析・結論の整理、そして学術的・社会的な新規性という観点から専門家による審査が行われました。


メディア取材も入り、中高生とは思えない本格的な研究発表に感嘆の声が上がりました。質疑応答では、東京大学の研究者や尾西食品から鋭い質問が投げかけられ、参加者たちは堂々と自らの研究について説明する姿が見られました。
________________________________________
【発表内容ハイライト】
最優秀賞
研究タイトル:
「避難所生活における健康維持のための意識調査―防災バッグの常備薬備蓄と災害時アレルギー対応―」


発表内容の概要:
災害時の避難生活において、「薬の備え」と「アレルギー対応」という、従来見落とされがちだった2つの重要課題に着目した研究。首都圏の中高生282名を対象にアンケート調査を実施し、以下の重要な実態を明らかにしました。
主な調査結果:
●    防災バッグの所有率は57.4%だが、その中に常備薬が入っている割合はわずか45.9%(全体では27.7%)
●    常備薬を備蓄している層でも、75.8%が使用期限を確認していない
●    常備薬を入れない理由は「何を入れたら良いか分からない」(39.2%)、「家に常備薬がない」(27.8%)、「使用期限などの管理が負担」(19.6%)
●    約7割の中高生が自身または身近な人に食物アレルギーを持つ人がいるにもかかわらず、アナフィラキシーの対処法を「知らない」人が57.9%
●    過去の災害時にアレルギー対応食の入手困難や誤食などのトラブルがあったことを「知らなかった」人が80.7%
●    避難所の備蓄について「十分に用意されていると思う」という楽観的な回答が75.4%
●    災害食に求められる要素として、「社会的に必要」と考える割合(アレルギー対応66.7%、高齢者向け64.9%)が、「個人の要望」(同40.4%、21.1%)を大きく上回る





研究の意義:
本研究は、内閣府の2025年10月の世論調査で示された「家庭の防災備蓄において薬を含む衛生用品が38.7%にとどまる」という統計を中高生の視点から裏付け、さらに深掘りしたもの。専門家の中でも見落とされてきた「薬の備え」の優先順位の低さと、アレルギー対応に関する知識不足という構造的な課題を浮き彫りにしました。
研究では、常備薬が水・食料・懐中電灯などと比較して最も低い優先順位に位置付けられており、中高生が「まず生き延びること」に強い意識がある一方で、「生き延びた後の被災生活を健康に乗り切ること」への重要性認識が相対的に低いことが示唆されました。
また、アレルギー対応については、中高生がこれを「命に関わる社会的な課題」としては認識しているものの、「自分ごと」として主体的に捉えられていないという「社会的ニーズ」と「自分ごと」認識の不一致が明らかになりました。「要配慮者」という言葉を「知らない」と回答した人が57.9%に上り、アレルギー疾患が要配慮者として規定されていることを知っているのは全体のわずか8.8%でした。
開沼准教授からは「専門家でも見落としてきたポイントで、今後の施策にも取り入れていくべき重要な研究」との評価を受けました。
発表での印象的なシーン:
質疑応答で、学生から「エピペンは自分で刺せばいいのでは?」という質問に対し、発表者でありアレルギー当事者でもある杉本咲紀さん(中学3年生)が「エピペンが必要な時は、苦しくて苦しくて、とてもじゃないけど自分では刺せない。一刻を争うタイミングで誰かが代わりに刺してあげる必要がある。力もかなり必要で、太くてとても痛いんです」と、実体験に基づいた堂々とした回答をする場面があり、会場に大きな気づきを与えました。この発言は、「エピペンの使い方の知識をみんなが持つ必要がある」という研究の提言の重要性を、当事者の視点から説得力をもって伝えるものとなりました。
________________________________________
優秀賞
研究タイトル:
「災害時に中高生はスマートフォンをどのように使うのか」



発表内容の概要:
現代の中高生にとって不可欠なスマートフォンが、災害時にどのように活用されるのか、そして保護者による使用制限が災害時の安否確認や情報収集にどのような影響を及ぼすのかを調査した研究。首都圏の中高生261名を対象にアンケートを実施しました。
主な調査結果:
利用実態:
●    スマートフォンの利用目的は91%が「友達・家族との連絡」と回答
●    使用アプリはLINE(97%)、Instagram(62%)、TikTok(44%)、X(33.5%)
●    災害情報の確認や情報収集を利用目的とする人は全体の1%未満
使用制限の実態:
●    65%の中高生にスマートフォンの使用制限がかけられており、その内58%は保護者によるもの
●    最も制限がかかっているのは「アプリインストール」(43%)、次いで「Youtube」(19%)、「Google検索」(17%)
●    22%が「災害が起きても、自分のスマホの制限は解除されないと思う」と回答
●    25%が「制限によって連絡が取れなくなって困るかもしれない」と回答







防災意識と備え:
●    56%が「特に何もしていない」と回答
●    モバイルバッテリーの所持率は40%だが、実際に使用する人は1%未満
●    災害時のバッテリー対策として、低電力モード(83%)、画面の明るさ調整(71%)が認知されている
災害情報の取得:
●    最も信頼されている情報源は「テレビ・ラジオ」(40.6%)
●    X・InstagramなどのSNSを「よく使用する」「使用しない」で意見が分かれる(26.4% vs 28%)
●    自治体や気象庁の公式発表を最も信頼する人が71.6%
●    半数以上が公式サイトで裏付けをとって慎重に情報を選別
共助意識:
●    災害時にスマホで誰かを助けたいかという質問に対し、「特に考えていない」人が60.2%
研究の意義:
本研究は、日常的な使用制限が災害時の緊急連絡や情報取得を阻害する可能性を初めて実証的に示しました。携帯会社側、利用者側、公的機関側の3つの視点から具体的な対策を提言。特に、災害時に保護者と子どもが離れ離れになった際、子ども自身で制限が解除できず危険な状況に陥る可能性を指摘しました。
中高生ならではの視点とチームワークの高さが評価され、チームをまとめた小川さん(高校1年生)のリーダーシップが特に高く評価されました。
発表での印象的なシーン:
尾西食品広報室で司会を務めた栗原から「学校ではコンセントは使えないのですか?」という質問に対し、小川さんを中心にチームメンバーが各学校の状況を回答。「盗電といわれるのでコンセントは使えません」「学校で支給されている端末も自宅での充電が必須で学校では充電できません」と、大学や職場とは異なるコンセント事情が浮き彫りになりました。
普段から充電できない環境下にいる学生たちは、災害時に情報収集できるツールが十分に使える環境にない状況も想像でき、学生目線での問題定義が社会全体の対策に必要であることが明らかになりました。「充電できないから、そもそも充電器も持ってきていないだろう」という指摘は、大人だけでは気づけない重要な視点として会場に衝撃を与えました。
________________________________________
赤門賞(その他2チーム)



研究タイトル: 「東京ドームではどのくらいの帰宅困難者が発生しうるのか―東京ドームの帰宅困難者数と文京区の帰宅困難者一時滞在施設のキャパシティ―」
大規模施設である東京ドームでの帰宅困難者数を推計し、文京区の受け入れ体制との比較分析を実施。具体的な数値をもとに、地域の防災計画への提言を行いました。
研究タイトル: 「中高生の防災意識と行動は、周りの情報や教育とどのように関係しているのか」
昨年度、荒川区教育委員会と連携して実施した「区内中学生家庭の防災に対する意識調査」の発展研究。調査範囲を拡大し、年代別・地域別の防災意識の違いを分析。学校教育における防災教育の改善点を具体的に提言しました。先行研究との比較分析により、防災意識の経年変化を明確化し、学校現場で即実践できる具体的な教育プログラムを提案しました。
________________________________________
【審査基準】
開沼准教授・尾西食品・メディアによる審査は以下の観点で実施されました:
✓ 研究の「問い」と「答え」の対応関係の明確さ
✓ 先行研究の整理と研究の位置付けの適切さ
✓ 調査・検証方法の新規性・独自性
✓ プレゼンテーション全体の魅力
✓ 論点の明確さと表現力
✓ 分析・結論の整理と意義の明確さ
✓ 学術的・ジャーナリズム的な新規性・独自性
特に、「学会報告・論文」や「良質な記事」として成立する価値があるかという観点を重視し、中高生の研究でありながら社会に実装可能な提言が含まれているかが評価されました。


________________________________________
【参加者の声】
最優秀賞チーム:杉本さん(中学3年生)

――最優秀賞おめでとうございます。率直な感想を聞かせてください。
「本当に嬉しくて、ミッション完了できて泣きました。思っている以上にたくさんの時間をかけて研究を調べたり、毎日時間をたくさん使って作業していたので、頑張った結果が出たと思います」
――このテーマを選んだきっかけは?
「もともとトリアージについてやりたいと考えていたんですが、方向性を検討している中で『薬って備蓄してないよな』と思って。学校で友達に聞いてみたら備蓄していない人が多くて。それだけだと先行研究がたくさんあるので、もともとやりたかった人もいた『食』と結びつけることにしました。私自身もアレルギーがあって気になっていたので、薬と食事とアレルギーを結びつけた研究にしました」
――医学の道を目指しているそうですね。今回の研究は将来に繋がりそうですか?
「はい。これをやったことで災害看護という分野に興味を持ちました。今は少ない大学でしかない分野なんですけど、すごく面白いなと思っています。今後どうなるかわかりませんが、とにかく医療系には絶対行きたいです」
――チームをまとめる中で大変だったことは?
「本当に大変でした。最初の頃はずっと一人で喋っている時もあって。メンバーの反応がなかったり、温度感の差があったりして、そこで他チームの方にも相談しました。やる気にさせるっていうのが一番難しかったです。でも、一人で抱え込まずに助けを求めることも学べました」
――発表はどうでしたか?
「すごく楽しかったです! 途中でスライド操作を一人でやるところがあって『これやばい』と思ったんですけど、なんとかできました。質疑応答もうまくできたと思います。根拠をしっかり説明できたので良かったです
________________________________________
優秀賞チーム:小川さん(高校1年生)



――プログラムを通じてどんな変化がありましたか?
「内容的な側面よりも、研究に向き合う姿勢や準備のプロセスにおいてすごく変化がありました。1人ではなくメンバーと作り上げるプレゼンという、自分があまり経験していなかった体験でした。中学生メンバーを気にかけてあげたり、少しでもやる気がある人を置いていかずに引っ張っていくことができました。1人でやるのが1番スムーズだと思っていましたが、自分の知らないこと、見えない部分ですごく学ぶことが多かったです」
――プログラム参加前後で「防災」に対するイメージは変わりましたか?
「参加前は防災の事前対策しかイメージしていませんでした。でも参加後は、災害後の自助、共助、公助や、医療や情報の側面など、防災には色々な側面があると知りました」
――特に楽しかったこと、印象に残っていることは?
「スライドや予稿、発表を作り上げて、完成させたことです。みんなが最後発表後に笑ってくれていて嬉しかったです」
――苦労したことは?
「他のメンバーを引っ張っていくことと時間の管理です。メリハリをつけたり、チームメイトに頼ったりして乗り越えました」
――「学び方」について得たことは?
「既に誰かが調べてわかっていることを言っても研究の価値はないとみなされてしまうということ。世界初の発見をすることこそが研究であり、そのために思考し続けること。AIや教授との壁打ちの重要性を学びました。何度も色々な人や視点からリサーチクエスチョンを見直して、スライドなどもメンター(大学生サポートスタッフ)のお手本を参考にしました」
――学校の授業や部活動との両立はどうでしたか?
「少し大変でしたが、手厚いサポートや的確なアドバイス、チームメンバーの存在のおかげでモチベーションは維持できました。部活の後にしか作業ができなかったりしたけど、開沼先生もメンターもメンバーも理解があって、認めてくれていたから安心して続けられました。」
――今回気づいた自分の強みは?
「他のメンバーを気にかける力、その場で相手の言っていることや意見を頭で整理して理解したり質問したりできることです」
――今後この経験をどう活かしたいですか?
「将来的に自分のやりたいことや他の探究、そしてこの探究の継続に活かしたいです。国際政治などの興味の分野にも挑戦したいです」

________________________________________
【審査員コメント】
東京大学大学院情報学環 開沼博准教授



――4チームの研究発表をご覧になって、率直な印象を教えてください。
「初回ということでどうなるかと思いましたが、研究として新規性・独自性が認められ得る水準の知見がいくつも出ていました。おそらく学校の防災訓練やメディアから流れてくる情報だけではわからないことを、それぞれが深く追求できたのではないかと思っています」
――中高生ならではの視点について、どう評価されますか?
「世代が違うから見える世界観が違うということ、そしてむしろ社会が変わっているのに、私たち大人が追いついていないということを、昨年の荒川区調査でも痛感しましたし、今年もそこに深く入り込むことができました。
特にアレルギー対応の話は、災害研究者が注目できていない部分でした。食の話は二の次、三の次にされてきた部分だったので、そういった新規性が研究としてもあるというところに目が向いたのはすごいことです。
また、スマートフォンの使用制限と災害時の情報取得の関係についても、中高生ならではの視点でした。大学ではテーブルにコンセントがあって充電できるのが当たり前ですが、学校では『盗電』といわれて使えない。そういう知識ではなく『知見』や『感覚』がないと、大人だけで話してもそこで歪みが出てくるんだということを改めて感じました」
――中高生の成長について、どのように感じられましたか?
「チームワーク、リーダーシップ、フォロワーシップといったものや、プレゼン能力、ロジカルに語る努力なども一通り身についたと思います。データサイエンスという今急拡大している分野で、大規模データを中高生でも実際にプログラミングで分析するということにチャレンジできたのも意義がありました。
最も重視しているのは、中学校・高校レベルの『頑張ったね』と全肯定する環境ではなく、本気で社会に関与していくという基準を設定したこと。それについてこれる人が多かったということは素晴らしいことです」
――次世代の防災を担っていく彼らへメッセージをお願いします。
「SNSが登場する前、文章を書くのはプロの仕事だと思われていました。しかし今では全員が発信者になっています。これは広い意味で『民主化』と言えるかもしれません。
学問も同じように民主化されていくプロセスにあります。学者や先生じゃないと研究できないという話は全くなく、方法論とデジタルツールがあれば、誰でも研究はできます。
一人一人が学者にならざるを得ない時代に、防災・災害を考える担い手として20年後、30年後に育っていてくれればいいなと思っています」
________________________________________
【プログラムの特徴:Discordを活用したオンライン研究活動】
本プログラムでは、コミュニケーションツール「Discord」を活用し、月2回程度のオンライン進捗会議と日常的なやり取りを実施。中高生たちは時間をうまく作り活発に議論を交わし、専門家からリアルタイムでフィードバックを受けながら研究を進めました。
参加者からは「大人に見張られているのではなく、いつも大人が反応してくれることが良かった」「何かを投げたらすぐ返事がもらえて、自分の生活スタイルを認めてくれたことがすごく安心だった」という声が上がりました。
開沼准教授は「他のプログラムと比較しても、このプログラムの学生たちは特に優秀でした。Discordというカジュアルなツールで活動できたことが、活動時間を広げ、『みんな頑張ってる』という雰囲気が生まれたのではないか」と分析。オンラインツールを活用した新しい学びの形が実現しました。
最後には、スタッフが手を出さずとも学生たちが自ら議論を始めるようになり、「ゼミ的なこと」が成立するレベルに到達しました。
________________________________________
【今後の展開】
●    チュラーロンコーン大学・東京科学大学との国際防災意見交換※1月7日午後開催
●    学会発表への挑戦(日本災害情報学会など)
●    各種コンテストへの応募
●    研究内容のブラッシュアップ指導
●    論文執筆サポート
今回の発表で特に優れた評価を得たチームは、来年3月の学会発表に向けて専門家の継続的な指導を受けながら、さらに研究を深化させていきます。
________________________________________
【プログラムについて】
本プログラムは、尾西食品株式会社が東京大学と共同で実施する体験型防災教育プログラムです。
尾西食品が本プロジェクトをサポートする意義
昨年度、荒川区防災対策会議において、当プログラムに参加した中学生から「中高生も災害時に防災の担い手になれる」という重要な提言がなされました。
防災食メーカーとして、備蓄食を提供するだけでなく、次世代の防災意識を高め、中高生が実際に防災の担い手として活躍できる環境をととのえることも、持続可能な防災社会の実現につながると確信しています。
本プログラムでは、参加する中高生が月2回程度のオンライン進捗会議で専門家の指導を受けながら、自らの手で防災について調査・検証し、学術的成果として通用するレベルの研究を進めてきました。
2026年3月まで学会発表やコンテスト応募に向けたブラッシュアップを行うチームについて、引き続きサポートしてまいります。