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2021.07.12

非常食の備えと近くの他人とのつながりを大切に

備蓄していた食品や水はほとんどなく危機に直面、人と知恵で乗り切る

在宅訪問管理栄養士 塩野﨑淳子氏

大都市で災害が起こった場合、核家族化が進んでいるので人手が足りず、飲食物を手に入れることや煮炊きをすることがより難しい状況になることが想定されます。東日本大震災を仙台市内で体験され、2歳と生後1ヶ月のお子さん2人をご夫婦で育てながら厳しい時期を乗り切った、在宅訪問管理栄養士である塩野﨑淳子氏にお話を伺いました。

 

備蓄していた食品や水はほとんどなく危機に直面、人と知恵で乗り切る


――東日本大震災当日の様子を教えてください。
塩野﨑淳子氏(以下 塩野﨑) 地震発生時は仙台市内の自宅マンションにいました。生後1ヶ月の次女に授乳をしていた時に、体験したことのない大きな揺れが襲ってきたのです。あまりの揺れにソファから立ち上がることもできず、当時2歳だった長女を抱き寄せ、何も知らずに母乳を飲み続ける次女を抱えたまま一歩も動くことができず、ただ怯えるだけでした。キッチンは食器が破損して散乱し、とても入れない状況で、電気・水道・ガスも全て止まっていました。食品や水はほとんど備蓄しておらず、とりあえず買ってあったパンとノンアルコールビールとコーラに救われました。思い返せば、私達も災害弱者でした。

――その後はどのような状況だったのでしょうか。
塩野﨑 その後34日は冷蔵庫の中の食材でなんとか食い繋ぎましたが、余震と精神的ショックにより料理をしようと思えたのは発災3日後くらいからです。2歳の娘のためにも早く日常を取り戻さないと、と焦りました。夫が復旧作業の仕事に出ていたので、私は幼い子供2人を抱えて食材探しに奔走、ご近所のママ友さん達とも手分けをして食材を確保し、助け合って育ち盛りの子供達の面倒を見ることができました。まさに「遠くの親戚より近くの他人」という助け合いの大切さを身をもって体験したのです。
電気が復旧するまでは、自宅にあったカセットコンロと土鍋にも助けられました。米1に対して1.2倍の容量の水を土鍋に入れて蓋をして強火で沸騰。ガスを節約するために、沸騰して12分ほどしたら土鍋を火から下ろし、バスタオルや布団で包んで30分ほど保温すると炊き立てのお米ができます。
 

今後の災害への備えが大切




――今後の災害に備えてどのような備えが必要でしょうか。
塩野﨑 いずれの家庭でもカセットコンロと共に一週間分の食物と水は備蓄しておき、それを日々消費したら追加しておくというローリングストックをしていくことが必要だと思います。災害時には新鮮な野菜などが手に入りにくくなり微量栄養素が不足しやすいので、マルチビタミンなどの健康補助食品もストックしておくと良いですね。
また、停電の際にもお米が炊けるように、カセットコンロを使ったお米の炊き方も習得しておきましょう。普段できていない事は、非常時にはできません。今回の震災でも、いつもは電気炊飯器を使っているので、お米と鍋、カセットコンロは自宅にあるけれど、お米の炊き方が分からずに食事に困っていたという事例がありました。
食物アレルギーのある方や乳幼児、嚥下困難や高齢者など、食物の面から制限のある災害弱者の方々への対応としては、急性期に食べられるものがないという事態を防ぐために、自宅での備蓄と合わせて避難所にもそういった方々のための食品を最低でも3日分は備蓄しておいてほしいと思います。また県の栄養士会にはそういった特殊食品が集まりますので、災害弱者の方は災害時に我慢するのではなく、「困っている」と臆せずに声を上げることを頭の片隅に入れておいてほしいです。


――在宅避難者の場合、心掛けておくことはどのようなことでしょうか。
塩野﨑 私たちは在宅避難者でした。在宅避難者の場合、配給のお弁当やおにぎりなどは自分で避難所まで行かないと手に入れることができないので、地域の方と手分けして物資の受け取りや買い物、物々交換ができるととても効率よく食材を手に入れることができます。老人会、ママ友、子ども会、趣味の会など何でもいいので、いざとなったら助け合えるネットワークがあるとよいでしょう。日ごろから近隣とのお付き合いをしておくことが大切だと思います。
また、地域にはネットワークが希薄な独居高齢者などもおられますので、災害時にはそういった方々にもひと声をかけていただけると、安否確認ができ、「気にかけてくれている人がいる」という気持ちが伝わり、SOSを出さずに我慢している方を見つけることにもつながります。
 

管理栄養士としての思い


――災害に備えた管理栄養士の役割、取り組みについて教えて下さい。
塩野﨑 これだけ大規模な災害が何度も起きているので、病院や施設の管理栄養士は緊急時の給食をシュミレーションして、完全な食事ではなくてもなにかしら食事を提供し続けることができるよう、入念な準備が必要です。近隣の方も避難してくるかもしれませんが、食料庫の備蓄量には限界があると思いますので、そういった場合の食糧の調達方法を予め行政と話し合っておくことも求められると思います。また、管理栄養士は日ごろからアレルギーや嚥下困難がある方の対応をしているので、「災害食の訓練の日」を設けて、災害時の給食提供の内容や段取りを確認する日があれば、いざというときに慌てなくてもすむかもしれません。

――東日本大震災での避難所間の「食の格差」。
塩野﨑 東日本大震災では各避難所に運ばれた支援物資に偏りがあり、また火が使える避難所ではバランスの良い食事が提供され、そうでない避難所ではパンとおにぎりや飲み物だけが続き、偏った食生活が続いた事例があったことが報告されています。偏った食生活は、短期間で被災者の健康に悪い影響を及ぼします。今後も見据え、万一の場合でも避難所間の食の質の格差が最小限になるように、近隣市区町村が協力して備えておくべきではないかと思います。

――備蓄食への提案。
塩野﨑 発災から数日間は、あまりのショックで食欲がない人が多いと思いますし、さらに、4日目くらいからは避難生活の疲れが出てきます。バリエーションのある備蓄食でしっかりと栄養を摂取して、少しでも前向きになれるような食事が望まれます。
東日本大震災では、寒さと疲労で憔悴しきった被災者には、冷たくて甘い栄養剤ではなく、温かい具沢山の豚汁が好評だったと聞いています。備蓄食は、単に栄養を摂るという目的だけでなく、美味しくて心まで温まるようなものが求められていますし、災害時に不足しがちなタンパク質やビタミン・ミネラルが補強されているとなお良いと思います。


塩野﨑淳子氏(プロフィール)
「訪問栄養サポートセンター仙台(医療法人豊生会 むらた日帰り外科手術クリニック内)」
「医療法人財団はるたか会 あおぞら診療所 ほっこり仙台」在宅訪問管理栄養士

女子栄養大学実践栄養学部卒。管理栄養士、介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て2008年より訪問看護ステーションの居宅介護支援専門員として在宅療養者の支援を行う。2015年からは在宅訪問管理栄養士として活動。