2023.12.01
家庭の備蓄は、自分の好きなものが一番!
~災害食は押入れからパントリーへ 普段使いして好きな味をストックしよう~
国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター 国際災害栄養研究室長 坪山(笠岡)宜代先生
全国のさまざまな災害現場に派遣され、管理栄養士・研究者として支援の陣頭指揮を執ってきた災害食研究の第一人者である
医薬基盤・健康・栄養研究所 国際災害栄養研究室長の坪山(笠岡)宜代先生に、災害時に必要な栄養と備えに関するお話を尾西食品が伺いました。
医薬基盤・健康・栄養研究所 国際災害栄養研究室長 坪山(笠岡)宜代 先生
〜東日本大震災以降の変化について〜
――避難所における災害食の変化について教えてください。
東日本大震災を契機に2018年4月に国際災害栄養研究所が開設されたのですが、避難所での変化という点で言うと、乾パンが山積みになっている姿をあまり見なくなってきたのは、大きな変化だと思います。避難所での食に対する考え方が「食糧から食事」へと変わってきたと感じています。実際の災害時に避難所で毎日乾パンを出しても食べてくれないというのは被災地にとっての大きな学びだったのでしょう。
但し、「食事に変わった」といっても、食事の味、変化、バリエーションが必要だというのは、残念ながらまだ主流の意見ではないようです。しかし実例として、2019年に発生した台風での被災時に、避難所で白飯だけの食事がつづき、皆食べられなくて残してしまうという声が届きました。そこで「ふりかけ」を用意することで喜ばれたようです。このような経験から、特に被災経験のある自治体では、食事における味、変化、バリエーションの大切さを認識し、この必要性が他の自治体にも少しずつ広がりつつあります。
――避難所における食の重要が高まっているということでしょうか。
災害時における食の問題は、毛布やベッド・トイレといったものに比べると後回しにされることが多かったのですが、食事の不足や栄養の偏り等や健康二次被害が話題になる事が多くなるにつれて、少しずつ重要視されてきています。
被災地では自治体と支援チームが情報を共有する会議が開かれます。以前の災害では、食事の状況を聞けるような雰囲気ではないことも多くありました。
それでもその後も災害支援で現地入りする度に毎回、食事を気遣う問いかけをした際には、食事の大切さを共感してくれるような反応が返ってきて優しい空気になるなど周囲の対応も変化してきました。災害医療を議論する学会においても以前は食事に関する演題などは殆どありませんでしたが、今は特別セッションが行われたり、医師等の発表において調査項目に「食事」が入って来たりと、食のことに意識を向ける人が格段に増えてきました。徐々に災害時における食の重要性に意識が向いてきたのは大きな変化と言えます。
〜災害時の食事について〜
――災害時の食事についてまだ十分ではないと考えられることは何ですか。
「食糧から食事に変わった」のは大きいのですが、食事の質といった点では理想にはまだ届いていないと思います。
食事の質で重要なのは、栄養は勿論大切ですがそれだけではなく、美味しさや食べやすさ、バラエティも大切です。
温かいものは温かく、冷たいものは冷たくして食べたいものです。ストレスが多い災害時こそ「食べる楽しさ」を提供することが重要で、そうした意味での食事の質という点では、まだ十分ではないと考えています。
――災害時の食事について大切なことは何ですか。
私は「味」がとても大切だと思っています。最初は美味しかったけど、同じものだと飽きてしまうので、味付けの変化は重要です。災害時に不足した食品は何かを自由に書いてもらう調査をしたところ、乳製品、肉、野菜、豆、魚介類の次は、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ブラックペッパーなどの調味料でした。おそらく避難所では豚汁やうどんの炊き出しに代表されるようにみそ、しょうゆ、塩味などが多く、それが続くと飽きるので調味料による味の変化が求められていたのかもしれません。アルファ化米のように沢山の味のバリエーションがあることは、災害時とても重要だと思います。ただ自治体の倉庫に行くと「わかめごはん」1種類だけしかないということがよくあります。それだと、乾パンと同じことが起こって「わかめごはん」はもう見たくないとなってしまいます。味のバラエティを意識して備蓄品を揃えることは、とても重要なのです。また、災害高血圧にも注意が必要です。1日の塩分が1g増えると、災害高血圧が16%増えてしまうことも考慮すると良いでしょう。
〜災害備蓄食について〜
――ご家庭で備蓄する時は何を基準に選んでいくのが良いでしょうか。
私が副会長を務めている日本災害食学会の災害食認証が付いている商品であれば安心ですので
―災害備蓄食の賞味期限がいつのまにか切れてしまったという話をよく耳にしますが、対策はありますか。
災害食は押入れの奥にしまい込んでいるから忘れてしまうので、普段使いにも積極的に使ってローリングしていくのが良いです。そうすれば自然に味を知り、自分のお気に入りができて、そのお気に入りを災害時に食べられることで安心できます。押入れの中に入れていたものも含めてローリングしていく文化を作れるといいなと思います。
最近の災害食は、美味しさと便利さを兼ね備えているので、いつもではないけれど、時々ある平常時のピンチの時にも利用できるところが魅力だと感じました。
最低限の非常食から、普段でも使える災害食という流れになってきましたが、非常食、災害食というネーミングも誤解を招いているのではないかと思っています。それが災害時のためだけの食事と限定されたイメージに繋がっています。美味しい災害食は、普段使い・疲れた時・今日はラクしたいなという時・小腹がすいた時・一人暮らしでの自炊等々、そういう細かいニーズにピッタリです。例えばフェーズフリーで使える食とかユニバーサルな食というメッセージが伝わると、もっと親しみやすくなると思っています。
医薬基盤・健康・栄養研究所 国際災害栄養研究室長の坪山(笠岡)宜代先生に、災害時に必要な栄養と備えに関するお話を尾西食品が伺いました。
医薬基盤・健康・栄養研究所 国際災害栄養研究室長 坪山(笠岡)宜代 先生
〜東日本大震災以降の変化について〜
――避難所における災害食の変化について教えてください。
東日本大震災を契機に2018年4月に国際災害栄養研究所が開設されたのですが、避難所での変化という点で言うと、乾パンが山積みになっている姿をあまり見なくなってきたのは、大きな変化だと思います。避難所での食に対する考え方が「食糧から食事」へと変わってきたと感じています。実際の災害時に避難所で毎日乾パンを出しても食べてくれないというのは被災地にとっての大きな学びだったのでしょう。
但し、「食事に変わった」といっても、食事の味、変化、バリエーションが必要だというのは、残念ながらまだ主流の意見ではないようです。しかし実例として、2019年に発生した台風での被災時に、避難所で白飯だけの食事がつづき、皆食べられなくて残してしまうという声が届きました。そこで「ふりかけ」を用意することで喜ばれたようです。このような経験から、特に被災経験のある自治体では、食事における味、変化、バリエーションの大切さを認識し、この必要性が他の自治体にも少しずつ広がりつつあります。
――避難所における食の重要が高まっているということでしょうか。
災害時における食の問題は、毛布やベッド・トイレといったものに比べると後回しにされることが多かったのですが、食事の不足や栄養の偏り等や健康二次被害が話題になる事が多くなるにつれて、少しずつ重要視されてきています。
被災地では自治体と支援チームが情報を共有する会議が開かれます。以前の災害では、食事の状況を聞けるような雰囲気ではないことも多くありました。
それでもその後も災害支援で現地入りする度に毎回、食事を気遣う問いかけをした際には、食事の大切さを共感してくれるような反応が返ってきて優しい空気になるなど周囲の対応も変化してきました。災害医療を議論する学会においても以前は食事に関する演題などは殆どありませんでしたが、今は特別セッションが行われたり、医師等の発表において調査項目に「食事」が入って来たりと、食のことに意識を向ける人が格段に増えてきました。徐々に災害時における食の重要性に意識が向いてきたのは大きな変化と言えます。
〜災害時の食事について〜
――災害時の食事についてまだ十分ではないと考えられることは何ですか。
「食糧から食事に変わった」のは大きいのですが、食事の質といった点では理想にはまだ届いていないと思います。
食事の質で重要なのは、栄養は勿論大切ですがそれだけではなく、美味しさや食べやすさ、バラエティも大切です。
温かいものは温かく、冷たいものは冷たくして食べたいものです。ストレスが多い災害時こそ「食べる楽しさ」を提供することが重要で、そうした意味での食事の質という点では、まだ十分ではないと考えています。
――災害時の食事について大切なことは何ですか。
私は「味」がとても大切だと思っています。最初は美味しかったけど、同じものだと飽きてしまうので、味付けの変化は重要です。災害時に不足した食品は何かを自由に書いてもらう調査をしたところ、乳製品、肉、野菜、豆、魚介類の次は、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ブラックペッパーなどの調味料でした。おそらく避難所では豚汁やうどんの炊き出しに代表されるようにみそ、しょうゆ、塩味などが多く、それが続くと飽きるので調味料による味の変化が求められていたのかもしれません。アルファ化米のように沢山の味のバリエーションがあることは、災害時とても重要だと思います。ただ自治体の倉庫に行くと「わかめごはん」1種類だけしかないということがよくあります。それだと、乾パンと同じことが起こって「わかめごはん」はもう見たくないとなってしまいます。味のバラエティを意識して備蓄品を揃えることは、とても重要なのです。また、災害高血圧にも注意が必要です。1日の塩分が1g増えると、災害高血圧が16%増えてしまうことも考慮すると良いでしょう。
〜災害備蓄食について〜
――ご家庭で備蓄する時は何を基準に選んでいくのが良いでしょうか。
私が副会長を務めている日本災害食学会の災害食認証が付いている商品であれば安心ですので
お勧めできます。ですが、大切なことは自分の好きなものを選ぶことです。災害時には食欲がない、
食事をする気にもならないというのが現実です。食べたくない人に栄養の重要性を言っても響かないのです。そういう場合は心のケアのチームの方に入ってもらい、心をサポートしてもらってからでないと、食事の支援などできないこともありました。見たことが無く、急に与えられたものを「食べなさい」と言われても食べたくないものですが、自分が好きなもの、食べたいものなら心が動き、食べることができるようです。例えば自分のパントリーを眺めて、気付くと良く無くなっているものを多めに買っておくといった、循環備蓄(ローリングストック)が備蓄にはオススメです。―災害備蓄食の賞味期限がいつのまにか切れてしまったという話をよく耳にしますが、対策はありますか。
災害食は押入れの奥にしまい込んでいるから忘れてしまうので、普段使いにも積極的に使ってローリングしていくのが良いです。そうすれば自然に味を知り、自分のお気に入りができて、そのお気に入りを災害時に食べられることで安心できます。押入れの中に入れていたものも含めてローリングしていく文化を作れるといいなと思います。
最近の災害食は、美味しさと便利さを兼ね備えているので、いつもではないけれど、時々ある平常時のピンチの時にも利用できるところが魅力だと感じました。
最低限の非常食から、普段でも使える災害食という流れになってきましたが、非常食、災害食というネーミングも誤解を招いているのではないかと思っています。それが災害時のためだけの食事と限定されたイメージに繋がっています。美味しい災害食は、普段使い・疲れた時・今日はラクしたいなという時・小腹がすいた時・一人暮らしでの自炊等々、そういう細かいニーズにピッタリです。例えばフェーズフリーで使える食とかユニバーサルな食というメッセージが伝わると、もっと親しみやすくなると思っています。