2022.09.01
防災は企業文化 「逃げ出す街から、逃げ込める街へ」森ビル災害対策室
~災害に強い街づくり 徹底した震災訓練と備蓄の体制~ 取材記事公開
森ビル株式会社災害対策室事務局長 細田 隆 氏
今回は、街づくりの専門家である森ビル株式会社災害対策室事務局長 細田 隆 氏に、災害に強いまちづくりや、震災対策、備蓄体制の構築などについて取材しました。森ビルは、「逃げ出す街から逃げ込める街へ」のコンセプトのもと、大規模再開発の特性を活かして、災害に強い安全・安心の街、開発地域のみならず周辺地域への貢献も果たす防災拠点を目指し、オープンスペースや交通インフラの整備など、都市基盤の整備をはじめ、ハード、ソフトの両面にわたる様々な対策を講じています。
森ビル株式会社災害対策室事務局長 細田 隆 氏
1991年4月 森ビル(株)入社、運営/管理部門等を経て、
2005年10月 PM事業部受託業務部、
2019年4月より現職
~東日本大震災を経て、港区との災害協定締結へ~
東日本大震災の際には、港区から約200名の帰宅困難者受入要請があり、即座に受入意志を表明しました。地下鉄が夜には動いた事もあり、想定よりも少ない人数の受入となりましたが、震災備蓄品から約1,500人分の飲料水・非常食、約550名分の毛布を配布しました。その翌年には、港区との間で災害時の帰宅困難者受入に関する協定を締結しました。
受入人数の規模は現在は1万人ですが、2023年に「虎ノ門・麻布台プロジェクト」、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が完成すると1万5千人規模にまで拡大する予定です。帰宅困難者の方への対応はビル運営を行っている当社が担う事になるので、様々なケースを想定して発災直後の初動訓練を実施しています。また、社員がすぐに災害現場に駆け付けられるように、ビルの近隣に社員を居住させており、その人数も順次増やしております。
~逃げ出す街から、逃げ込める街へ~
六本木ヒルズは2003年に完成しましたが、計画段階で阪神・淡路大震災が発生しました。六本木ヒルズ周辺は、計画当時には木造密集地域が残っており、そこに居住している方が安心して暮らせる街づくりが開発に当たっての基本コンセプトの1つとなりました。また、阪神・淡路大震災の例を見てもわかるように、大地震発生時は、道路は寸断され、お年寄りやお子様、お体の不自由な方など、避難所までに行くのが大変な方たちもいらっしゃいます。そこで、我々は災害時に家や街から逃げ出すのではなく、逃げ出さなくてすむ家や街、むしろ「災害時に逃げ込める街」を作ることが、それ以降の「安全・安心」の指針になりました。
~高い地域防災の意識を維持するために~
六本木ヒルズでは約800世帯の居住者に加えて、オフィステナント企業および店舗テナント企業等も含めた多彩な構成員による自治会活動が根付いています。防災上の課題が大きかったかつての木造密集地域を知っている方が現在も多く居住されていることもあってか、地域コミュニティにおける防災意識が非常に高く、「被害を防ぐためにどうすれば良いか」「災害に備えて備蓄をする」「災害時にはお互いに助け合う」といったことをとても真剣に考えていらっしゃる方が多いと感じています。
六本木ヒルズ自治会では「安全・安心、防災・防犯」を目的とし、地域コミュニティによる様々な防災活動に取り組んでおり、毎年3月11日には森ビルと自治会が共催で、六本木ヒルズ全体での震災訓練を実施しています。
震災訓練の様子
~備蓄食料に対する考え~
アルファ米は、備蓄品の入れ替え時に、子ども食堂など食料を必要としている方々へお届けした際にも特に人気があり、手軽に栄養がとれることに加え、味も昔に比べ格段に美味しくなったことがその理由だと感じています。それは尾西食品さんを始めとするメーカーさんのご努力だと思います。
備蓄倉庫
~災害対策はハードとソフトが両輪~
災害対策はハードとソフト両方がうまく嚙み合って、初めて機能するものだと考えています。当社の場合ハードは建物の制振・免震構造で建物を強靭化することや自家発電設備の設置による電力の自立化をめざすことがありますが、ソフトの面では、その街を構成する「ヒト」のスキルアップが、何より重要だと考えています。その為には日頃の訓練は極めて重要です。「事前に想定した事・訓練した事しか、災害時にはできない」と強く思っています。そのため、訓練を実施するたびに「プランは現実感があり、実際に動けるものとなっているのか」という視点で振り返り、日々改善しています。また、首都直下地震などの被害想定が見直されると、それに合わせて体制を見直す必要もあります。突き詰めていくと対策には終わりがないものだと思います。
~防災は森ビルの企業文化~