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2023.04.07

東京都帰宅困難者対策条例施行10年 BCP策定は難しくない!

~ 事業者の災害対策~事業継続計画(BCP)の課題と解決策~

中野明安弁護士(丸の内総合法律事務所)

尾西食品株式会社(本社:東京都港区 代表取締役社長 古澤紳一 ※以下、尾西食品)は、防災食・備蓄のリーディングカンパニーとして、”アルファ米”をはじめとする非常食を製造・販売。専門家のアドバイス、被災者の声を通して日常の防災意識を高める活動を進め、2021 年3月より、公式サイトにて防災コラムの発信をしております。

今年は「東京都帰宅困難者対策条例」施行10年にあたり、2月の東京都/総合防災部様に続く第二弾として企業における災害対策がご専門の中野明安弁護士(丸の内総合法律事務所)に事業継続計画(BCP)策定の現状と課題・解決策等についてお話を伺いました。


丸の内総合法律事務所
弁護士 中野 明安様


〜東京都「帰宅困難者対策条例」施行10年の現状と課題〜

――事業継続計画(BCP)の策定状況は伸び悩んでいる
内閣府の実態調査によれば、大企業の90%近くがBCPを策定済との事ですが、政府が目標としていた「2020年までに大企業で100%の策定率」には達しておらず、伸び悩んでいると言えます。特に日本の企業構造の大半を占める中小零細企業においては、策定率が10%程度という統計もあります。こうした事からも、BCP対応はおぼつかない状況で、果たして十分に災害に対応できるのか?と心配しております。
一方で、各事業所が定める消防計画においては、新たに帰宅困難者対策を作成して消防署に届出する事になり、形としては進んできています。但し、一番の問題はこうした消防計画は作る側は一生懸命考えるものの、それ以外の殆どの人たちは見た事すら無く、社内で全く浸透していないという事です。
BCPの策定状況やせっかく策定したBCPの浸透状況もいずれもまだまだの状況では、今度また大きな災害が発生すると東日本大震災の時と同じ様にみんな帰宅してしまうのでは・・・と心配しています。

――「理由にならない理由」でBCP策定が進んでいない
企業がBCPを策定しない理由として「ノウハウがない」「人材がいない」「策定義務がない」「効果がわからない」といったものが挙げられていますが、これらはすべて「理由にならない理由」です。「特別なノウハウはいりませんし」、「日々の業務の改善策の延長ですので、特別な人材はいりません。」また「法律上の義務はありますし」、「効果はもちろんあります」。
法律的な側面についてもう少し詳しくお話すると、事業者は災害時にも安全配慮義務があり、それを怠ると法的責任を問われる事がありますし、実際にいくつも安全配慮義務違反と判断する裁判例が出ています。法廷で主張される内容の1つが、「災害時はあくまでも自己責任で、自分の身は自分で守るべきもの。仮に従業員が不幸にして被災したとしても、それは不可抗力であって事業者側に責任は無い」というものですが、それは違うのです。災害時にも安全配慮義務はあるのです。
こうした「理由にならない理由」が出てきてしまうのも、「事実を知らないから」であり、だから「定着しない」のだと思います。誤解であることに気付いてもらう必要があり、その上で解決策をお示しする事が必要だと思っております。

――経営者がBCP対策で意識すべき事
BCPを作った事で満足しない事が大切です。例えばコンサルなどの外部の力を借りてBCPを策定した場合には特に注意が必要です。立派なBCPを作るとそれだけでやった気になり、その後何もしない事が多々あります。これでは何も身に付きませんので、実際に災害が発生した時には非常に危険です。
BCPもPDCAサイクルを通じてブラッシュアップさせるべきです。改善してより使い勝手の良いものへと変えていく必要があります。ただPDCAサイクルのおける“D”は実際には災害が発生した時しかできません。それを補う為には、本番さながらのリアリティを持った訓練をおこなう事で改善に繋げていくことが極めて重要です。訓練を怠ると安全配慮義務違反に問われる可能性も十分ありますので、真剣に取り組んで欲しいと思います。

――従業員が意識すべきことや取り組むべきこと
従業員は真面目な方が多いです。東日本大震災の時も津波の危険があるにもかかわらず、海沿いにある会社の倉庫の状況を見に行って亡くなられるといった事が起きました。従業員の方には、まずは自分の安全を最優先に考えていただきたい、と申し上げたいです。「会社もあなたがいないと事業継続ができない訳ですので、あなたの安全を考えている」という事に気付いて欲しいと思います。もう一つは家族の安全です。家族の安否が解らないと、仕事にならずに家に帰ってしまうのです。家族の安否が解る連絡手段を準備しておく事が大切だと思います。

合わせて従業員の皆さんにお願いしたいのは、会社がある地域の防災計画や会社の消防計画を是非読んで欲しいと思います。これらを読む事で「どんな災害が想定されているか」が分かります。それを知る事が「災害時に何をすべきかを知り」「自分の安全を守る」事につながると思います。


3.11当日の新宿駅前(東京都帰宅困難者対策ハンドブックより)

――備蓄において重要な食品の質                                    
食品の備蓄は極めて重要で、是非とも欲しいものです。というのも、「食事が提供できないにもかかわらず、会社に残ってくれ」というのは災害時にはなかなか厳しい指示です。「食事が無いのであれば帰宅します」とか「私が会社に残っていると全員に食事が行き届かないのであれば、他の方に迷惑をかけるだけなので家に帰ります」と言った帰宅する方便(?)に使われかねません。従業員に会社に残って欲しいのであれば、しっかりと十分な食数を備蓄しておく必要があります。

また備蓄する食品の質も重要だと思います。いざ災害が起きた時に「うちの会社はこんな食事しか食べさせてもらえなかった」と仮に従業員の方が思い、それがその後の離職の要因に繋がるとしたら、そうしたリスクも踏まえて食事の質を考えて備蓄する事がBCP対策においても重要だと思っています。

――関東大震災100年を迎え
私が所属している団体(「災害復興まちづくり支援機構」~東京弁護士会等の専門家職能団体による災害対策の諸活動団体~)においても、関東大震災100年をテーマとしたシンポジウムを予定しており、少しでもお役に立てるような活動を行っていきたいと考えています。

中野明安弁護士(丸の内総合法律事務所)
 成蹊大学法学部卒業、弁護士登録。日本弁護士連合会災害復興支援委員会委員長等、災害対策に関わる役職を多数歴任。企業における災害対策、リスクマネジメントについての著書も多数あり、外部のセミナー講師としてもご活躍中
災害復興まちづくり支援機構前代表委員、(一社)災害総合支援機構副代表理事、(一財)国際災害対策支援機構理事ほか

東京都帰宅困難者対策ハンドブック
(東京都公式ホームページへのリンク)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/369/202303.pdf