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2021.07.12

仙台からの提言。震災での教訓を生かし、世界の防災・減災とSDGs実現に貢献

底を突く食料備蓄、物流体制を見直して対応

仙台市危機管理局防災計画課 御供 真人氏・村口 恭之氏/仙台市経済局産業政策部産業振興課 荒木田 理氏・小池 伸幸氏

東日本大震災で被災した自治体の中で、唯一、人口100万人以上の自治体であった仙台市。甚大な被害を受けながらも、多くの住民への対応に追われました。その教訓を生かして改善を行い、さらに世界の減災につなげるための様々な取り組みを行っています。その時の状況やその後の取り組みついて、食を中心に仙台市役所の担当者の方々にお話を伺いました。


震災直後の市役所本庁舎前(写真提供:仙台市)
 

〜底を突く食料備蓄、物流体制を見直して対応〜


――東日本大震災での被害状況と市民の避難状況を教えてください。
御供真人氏・村口恭之氏(以下 御供・村口) 東日本大震災で仙台市は地震と津波を受け、904名の方がお亡くなりになり、3万棟以上の家屋が全壊し、1兆3千億円を上回る額に相当する甚大な被害が出ました。震災の翌日には人口の10分の1に当たる10万人以上が避難所に避難しましたが、電気・水道・ガスの復旧に合わせて徐々に避難者数が減り、3月16日には半減、そして7月末に避難所は閉鎖されました。

――避難所の食料備蓄や物流体制はどうだったのでしょうか。

御供・村口 当時、仙台市では24時間分(3食)の食料や水などを備蓄していましたが、避難所によってはその備蓄物資がすぐに無くなってしまう避難所も多くありました。物流体制については、想定では物資集配拠点より区役所に届け、そこから避難所に集配することを考えていましたが、実際には区役所に物資を管理する十分なスペースがなく、また管理・集配する人員、車両や燃料が不足する事態が発生。震災3日目からは物資集配拠点より直接避難所に配送するシステムに変更、その後は自衛隊にも配送を支援頂きました。
追加物資についても、当初は区役所で避難所のニーズを取りまとめることを想定していましたが、配送担当者が避難所の物資担当者から毎回物品配送依頼書を預かり直接必要な物資の情報を取得し、必要に応じて物資集配拠点で調達、次回以降の配送時に届ける方法に変更しました。現在はその時の経験を生かした物流体制としており、公的備蓄数量も24時間分(3食)から48時間分(6食)に引き上げました。

――食料備蓄をされていた市民も多くおられたと聞いています。
御供・村口 避難所はサポートの位置付けであり、自宅での食料・水・生活物資等の備蓄が大切です。震災前は、市民の方々には3日分程度の食料・水を備蓄するように呼びかけをしていました。大きな被害の出た宮城県沖地震(1978年)の経験がある方も多く、食料備蓄やお湯が沸かせるように石油ストーブを用意していたご家庭も多かったと思います。今回の震災では3日分の備蓄では十分な食料供給体制が整わなかったという意見もあったために、現在は1週間分程度の食料・水・生活物資等を備蓄するように市民にお願いしています。
 

〜避難所での食の状況、改善に向けた取り組み〜



(写真提供:仙台市)

――避難所での食事はどのような状況だったのでしょうか。
御供・村口 避難所では当初備蓄食料を提供し、その後は救援物資を配給、自衛隊やボランティア等による炊き出しも行われ、1ヶ月後からは栄養面・衛生面を考慮してお弁当を提供しました。仙台市では震災前からアルファ米を備蓄しており、食物アレルギーの患者さんにも対応できたことは大変良かったと思います。現在ではアルファ米は食物アレルギー対応に加え宗教を考慮したハラル対応とし、食物アレルギー対応の粉ミルクも備蓄するなど、幅広い方々に対応できるように配慮しています。

――避難所の運営面でも震災後に改善が行われているとお伺いしました。
御供・村口 震災時は、避難所の運営を担当する職員が交代の都度違う職員に変わったことから、情報の共有がうまくいかないケースが見られました。震災後にはこの反省を踏まえ、避難所毎に担当課を決めて、平時より地域団体や施設管理者と連携して顔の見える関係づくりを行い、コミュニケーションが上手くとれるようにしています。
また、仙台駅周辺の避難所に多くの帰宅困難者が避難したために、地域の住民が避難できないという状況が発生しました。これに対応するために、駅の構内やその周辺の商業ビル、ホテル、市有施設などを帰宅困難者一時滞在施設・場所として確保したほか、企業に対して、災害時に従業員をすぐに帰宅させず様子を見るよう啓発するなど、帰宅困難者の抑制に取り組んでいます。
さらに、コロナ禍の状況も考慮し、避難所に来ることで体調が悪化したり感染症に罹患したりしないように、感染症対策にも力を入れています。備蓄食料も、感染予防の観点では大人数分の炊き出しよりも一人分ずつ包装された食品が望ましいと考えています。
仙台市は、震災遺構を公開するなど、震災の経験や教訓を広く皆様に伝えています。また、震災後に採用された職員が既に全職員の4割に達していることから、内部向けの研修を実施するなど、職員間の経験や知識の承継にも取り組んでいます。
 

〜世界の防災・減災とSDGs実現のために〜


――震災での教訓を提言、世界の防災・減災に産業面から役立てたい。
荒木田理氏・小池伸幸氏(以下 荒木田・小池) 東日本大震災を経験した自治体の中で、唯一の人口100万人以上の自治体として仙台市は多くの被害を経験し、物資の供給体制など当時は十分に対応できなかったことも多くありました。
この経験と教訓を生かすべく世界に提言し、2015年に仙台市で開催された第三回国連防災世界会議にて国際的な防災の取り組み指針として「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。また、この枠組みは、同じ2015年に採択された国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)にも防災の観点で盛り込まれています。
さらに仙台市では、この枠組の社会実装のために「防災」と「IT技術」の掛け合わせによる「BOSAI-TECH(防災テック)イノベーション創出促進事業」に取り組んでおり、国内外企業との連携も含めた産学官金による新たな防災関連事業の創出を推進しています。食の分野でも、自宅避難者も含めた食生活の向上のための「被災者の食生活の把握と効果的な食の支援の実施」や「災害時の物資供給における円滑な情報共有と迅速な物資供給」に関する取り組みが行われています。また防災分野でのI S Oが策定される動きにも対応し、防災・減災に関する国際標準化と国際展開の取り組みにも参画しています。
仙台市では、震災から今までの10年間は様々な取り組みを行い、防災に関する知見を深めてきました。今後10年間は仙台防災枠組の社会実装に取り組みながら、得られた知見を仙台市から国内外に発信し、世界の災害リスクの低減に少しでも貢献したいと考えます。

――SDGsの実現にも貢献。
荒木田・小池 2020年、仙台市は防災環境都市としてSDGs未来都市に選定されています。とかくSDGsというと環境面ばかりに目が行きがちですが、実は防災もSDGsの1要素です。仙台市としては、防災面からもSDGsの実現に向けて貢献をしてゆきたいと思います。



御供 真人氏

仙台市危機管理局防災計画課施設整備係長


村口 恭之氏
仙台市危機管理局防災計画課防災計画係長


荒木田 理氏
仙台市経済局産業政策部産業振興課長


小池 伸幸氏
仙台市経済局産業政策部産業振興課成長産業係長